理事長の独り言 17

福山JC 2009年度理事長メルマガ 大島衣恵

 お盆明けの暑い一日、広島の音楽大学で「教員免許更新講習」の講師を務めました。小・中・高校の音楽教師の方々を対象に一日6時間、日本の伝統音楽についての講習です。近年の学習指導要領には必ず日本音楽(和楽器)を取り入れることが義務付けられていますが、音楽の先生方は殆ど西洋音楽だけを学んでこられた方が多く、学校現場での授業展開に悩んでいらっしゃるそうです。少しでもそのヒントになる講義ができれば、と講師をお引き受けしました。
 日本音楽といっても、一括りには出来ないのが日本の伝統音楽・芸能の特徴です。あまり知られていないことですが、日本は世界に類を見ないほど多種多様な独自音楽・芸能が存在する伝統文化大国なのです。先行芸能の良さを取り込みながら新しい形の芸能・音楽が時代ごとに興って、しかも元の芸能・音楽自体も発展しながら伝承されている。その連鎖が和文化の厚みを培ってきたのでしょう。その反面、一括りに出来ないことから現代の学校教育のシステムには取り入れにくい側面もあり、それが日本人の伝統文化離れを進めてしまった一因でもあるとも思います。
 しかしながら、和の音楽には共通の大切にしているものがあります。「間(ま)」と「息」です。演奏者が互いの呼吸を察しあいながら、しかも個の力を最大限に発揮することで演奏の中に間が生まれてきます。特に能はこのことに強くこだわっている芸能ですので、一日の講習の中でそのことだけは伝えたい、と考えていました。
 座学よりも実践あるのみで、ごく短い箇所を謡と小鼓、大鼓のパートに分かれて繰り返し何度も演奏する時間を設けました。丁寧な楽譜もなく、テンポを示すメトロノームもなければ、音程の決め手もない。ただお互いの呼吸を計りながら、腹に込めた力を声にします。始めは遠慮がちにされていた先生方も、繰り返していくうちに自分の「間」に自信がついたのか、謡や掛け声も次第に力強くなっていきました。演奏自体は単純ですから、一度コツを掴むとすぐ面白くなって、最終的には充実感を持って頂けたようです。
 皆で一つのものを作る喜びは何ものにも代えがたいものですが、そのために個々は自立して果たすべき役割を精一杯務めなければなりません。それが「和」の音楽の最大の特徴だという感想をお寄せ頂き、私自身も改めて大切な気づきを頂いた一日となりました。