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竹生島(ちくぶしま)

作者不明  季:春  所:近江国(滋賀県)竹生島

※「竹生島は琵琶湖の北部にある島で霊地として信仰が厚く、浅井姫を祭神とし、中世以来、本地(この世に神として現れた仏の、本来の姿)を弁財天としました。

※ 始めに、後見が竹生島明神の社殿の作リ物を舞台後方に出す。


【前場】天皇に仕える臣下の一行(ワキ・ワキツレ)が、竹生島に参詣しようと琵琶湖畔まで旅し、島まで乗せてくれる舟が来るのを待つ。〔後見が舟の作リ物を出す〕
竹生島1
シテ 大島輝久、シテツレ 佐々木多門
 漁師の老人(前シテ)と若い女(前ツレ)が、釣り船で通りかかる。二人は、弥生半ばの、朝霞の立つ麗らかな湖の景色を讃えて「沢山の魚を取って我が身を養い、世渡りをしていくのはつらい生業だが、同じ漁をするのでもこの湖は格別」と、志賀の旧都の花園や長等の山桜、真野の入江の舟などの眺めを楽しみ、臣下たちが呼んでいるのに気づいて舟を漕ぎ寄せる。
 臣下が「舟に同乗させてほしい」と頼むと、漁翁は「山田矢走の渡し舟でもなし、釣り船なのですが」と乗り気でないが、竹生島に初めて参詣すると聞いて、「あの霊地に向かう人を拒否すれば、お心にも違い、神慮も気にかかります」と乗船を許す。臣下は、「これも衆生を救う仏のお力」と、喜んで乗り込む。舟は、風も無くのどかな湖を渡り、竹生島へと向う。
所は湖の上 国は近江の江に近き 山々の春なれや 花はさながら白雪の 降るか残るか時知らぬ 山は都の富士なれや なお冴え返る春の日に 比良の嶺颪吹くとても 沖漕ぐ舟はよも尽きじ
 漁翁が櫂を操り、花盛りの山々や沖を漕ぐ舟の景色を眺めつつ渡っていくと、竹生島が見えてくる。
緑樹影沈んで 魚木に登る気色あり 月海上に浮かんでは 兎も浪を走るか (緑樹の影が湖に映るので、水中の魚が木登りしているように見え、月が湖上に浮かんで水面が光るので、月に住む兎も浪の上を走るかと思われる) という詩の通りの、趣き深い眺めである。
 島に上陸すると、漁翁は竹生島明神の社殿へと案内する。女も一緒に来たので、臣下が「この島は女人禁制と聞いたが」と不審がると「弁才天は如来の再来で、あまねく救いをもたらすので、女人こそ参詣するべきなのです」と教える。女も「それまでもなく、弁財天は女体で、神徳あらたかな天女として現じたのだから、女人だからと隔てはしません。大昔に衆生を救う悲願を起こして悟りを得てから、ずっとご利益をもたらしてきたのです」と説き、「我は人間にあらず」と告げると、社殿の扉を押し開いて中に入る。すると老人も水中に入ったと見えたが、戻ってきて「我はこの湖の主」と言って、また波間に姿を消す。〈中入〉

〔間狂言:明神に仕える能力が竹生島の由来を語り、宝物を見せ、岩飛の舞を見せる〕

シテ 大島輝久
【後場】その夜、社殿がしきりに鳴動して、日月が雲を晴らして山から昇るように、弁財天(後ツレ)が光り輝く姿を現す。虚空に音楽が響き花も降る中、春の月に輝いて舞う。
 時が過ぎ、月が湖面に傾く。波風がしきりに鳴り騒ぎ、湖底から龍神(後シテ)が出現すると、金銀珠玉を臣下に捧げ、雄大に飛び回る。
 仏は衆生を救うために様々な方法を取るので、天女となって願いを叶えたり、龍神となって国土を守護したりするのである。やがて天女が社殿に入ると、龍神も湖上に飛行して浪を起こし、天地にとぐろを巻く大蛇の姿を見せると、湖に飛び入って龍宮へと去る。

(画像は、2004/04/18 大島能楽堂定期公演より)