小謡「草戸千軒町」

山陽新聞連載「一日一題」 2002年4月5日

 さる2月11日、村上正名先生のご葬儀で小謡「草戸千軒町」を長男輝久と共に手向けさせていただきました。歴史家で、草戸千軒町遺跡発掘の功労者、村上先生は奇しくも私の妻の恩師というご縁もあり、折にふれ大変お世話になっておりました。
 この小謡は広島県立歴史博物館の当時の館長・高橋享氏のお口添えで、作詩を村上先生、節付(作曲)を父大島久見で1997(平成9)年に作られたものです。その年の秋の特別展の協賛行事として博物館の講堂でお披露目して以来、毎年催されることになった邦楽劇「草戸干軒絵巻」の中でも、長女衣恵や長男輝久が謡い継いでおります。また、私の謡と久田舜一郎氏の小鼓で、CD「瀬戸内の夜明け組曲」の中にも収録しています。
 この小謡の元になりました詩は、村上先生のご著書『草戸千軒町』(1967年、福山市文化財協会発行)の冒頭に、「この一編を海底に没しさらんとする草戸干軒町の廃墟に捧ぐ」として次のように記してあります。
 ―――芦の茂みに白鳥が 群なし舞たつ山すその緑のしじに ほのかにも浮かぶ朱の堂塔 ちかりと光る青自の磁 遠く宋の国から渡った奇しき器 流れの中に光をはなつ―――(後省略)
 先生の郷土に対する尽きる事のない愛情は今も、ご著書の中に涜ふれています。先生の偉大な業績に感謝申し上げ、ご冥福をお祈いたします。