薪能の魅力

山陽新聞連載「一日一題」 2002年5月24日

 薪能は奈良の興福寺が発祥の地といわれていますが、現在の薪能とは趣を異にしていたようです。
 20年ほど前から、夏の風物詩として薪能は脚光を浴び、最近、各地で頻繁に行われるようになりました。暑い時期の屋外での行事なので、舞台を設営したり、いろいろ準備していただくのもたいへんです。お天気、特に雨の心配もしなければなりません。
 地元の福山八幡宮での薪能は本年、17回目を迎えますが、今までに何回か、お天気に悩まされたことがあり、その度に宮司さんは「命が縮まりました」とおっしゃっています。今年、私が「船弁慶」をつとめます。前半は静御前の優美な舞、後半は平知盛と義経一行の壮絶な戦いと変化にとんだ屈指の人気曲です。
 また、8年前より福山から車で北へ1時間ほどの三和の森でも、薪能を続けています。昨年、第7回目にして初めて雨天のため光信寺の本堂で行いました。始まるころには雨もあがっていたのですが、そのまま続行し、随分とご迷惑をおかけいたしました。今年三和の森では、人商人から子どもを助ける、庶民の英雄「自然居士」を演じます。
 能をつとめる者にとりましても、外気を感じながら自然の中での薪能は、屋内の能楽堂では味わえないスリリングな一面もあり、魅力的です。お天気さえ良ければ満天の星空の下、赤々と燃える篝火に照らされた能舞台に幽玄の世界が繰り広げられます。能楽堂と違った気楽さと開放感が、人気の秘密なのではないでしょうか。
 ぜひ一度、お誘い合わせてお出かけください。“百聞は一見にしかず”です。